アートギャラリー「百代」とアートルーム「呼風」は、京都の老舗旅館「すみや亀峰菴」のロビーと客室をリノベーションして生まれたアートと伝統工芸が融合した空間である。陶芸家や帯匠、左官職人、和紙職人など、京都・丹波地域を拠点とする伝統工芸の匠たちと現代美術の協働によって実現された。
旅人達を迎え入れるロビーを兼ねたアートギャラリー「百代」から、アートと一体となった客室「呼風」までを内と外、天と地、生と死を表象する隧道でつなげるという構想で始まった本プロジェクトは、李白の詩「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過各なり」の一節から命名したロビー、そして三島由紀夫の詩「イカロス」から着想した客室から構成される。
エントランスではアント・ファームシリーズの「Study for Japanese Art – Hokusai」(2021)との対面から始まる。隧道を通り抜けて建物の5階に位置するアートルーム「呼風」は、天と地を表象する客間で構成されている。天の間は、透明な水の立方体の浴槽に虹のプリズムが現れ、洋間の壁には和紙職人・ハタノワタル氏とのコラボレーションによる菊の花びらの造形が散りばめられた作品「Loves me, Loves me not」が広がる。
地の間では、陶芸家・石井直人氏による登り窯の1200 度を超える高温で焼かれ変形した破れ壺の裂け目から揺らめく焔と織部釉の緑の陶板の壁、そして左官職人・久住章氏による石棺を思わせる浴槽と日没の焼ける夕日を思わせる洋室の土壁。そして憲法9条の条文が刻まれた日本刀による柳の作品「籠の鳥」が同居し、大地の生命感と死と再生の胎動を表現した空間となっている。この天と地の狭間の和室の客間には、帯匠・山口源兵衛氏によりインスピレーションされた若冲の菊花の帯が配された。
三島由紀夫の詩「イカロス」の一節が鏡を通して結んだ隧道は天と地を繋ぎ、日本文化の型を想起させる「菊と刀」へと誘う構造は、天と地、生と死、形而上と形而下などの対概念を象徴する総合芸術としての旅館を提示する。