熊本県津奈木町のつなぎ美術館の開館20周年を記念して3ヵ年で計画されたプロジェクト。津奈木町から水俣市内まで広範囲でリサーチを行い複数のアイデアの中から検討して、海の上に建つ旧赤崎小学校の廃校を中心としたエリアと津奈木町役場に隣接したイチョウ並木のエリアの2箇所で計画が進行。
2010年に廃校となった旧赤崎小学校のスイミングプールと付随する更衣室等を自然とアートが融合する宿泊施設として再生した「入魂の宿」は、スイミングプールを不知火海の閉鎖性水域のメタファーとして、植物による水の浄化と小さな動植物が共存する空間を創出している。
この宿泊施設「入魂の宿」は、水俣病を題材にした詩人・石牟礼道子の詩「入魂」から「海に魂が入る」という表現を引用し、地域の自然と共生していくことを目指しながら、水俣病による歴史に向き合う場として設計された。不知火海に面したこの施設の宿泊ルームには、W・ユージン&アイリーン・スミスが撮影した不知火海の写真を展示され、地域の文化的資源と歴史的背景について思考を促す。
津奈木町役場に隣接したイチョウの森での「石霊の森」は、津奈木の山から採掘されたまま放置されていた大小さまざまな岩を活用して、その岩の割れ目から言霊が聞こえてくる大規模な野外作品である。かすかに聞こえてくるのは、老若男女の声で語られる水俣ゆかりの文筆家、石牟礼道子の詩、水俣病の語り部の話、喧嘩の仲裁を主題とした郷土民謡「平国六方踊り」の演奏。訪れる人々は四季折々で変化するイチョウ並木の中で、岩に封印されていた言霊を聞くことで、自然環境と人間の関係について考えさせる。